私は一介のサラリーマンである。
つまるところ、自らの意思で大きな展開を求めて動き出すことがなければ、中小程度の波乱による多少の変動はあっても、おおむね人生の終着点は見えてくる頃である。
それでいいのだろうか・・・・

この3連休は、そのことを考えて「行動に移した」3連休であった。
自分1人ではこれだけの行動は起こせなかっただろう。
今思えば、このサラリーマン意識に危機を覚えた同調者がいたからこそ、できたのかもしれない。
その同調者・・・・仮に「Kさん」としておこう。
夏目漱石の「こころ」や、ロボット刑事などで安易に登場するイニシャルであり、かつ安直な「A」ではないので、それなりにインパクトはあるだろう。

この3連休のある日、某銀行の窓口で我々は、他人名義の預金を全額引きおろすことに成功した。
その金額は「2億円」。

窓口での預金引き出しまでのいきさつはすべてKさんが行ない、私は引き出したお金を1億づつ、2つに分割して手提げ袋に詰める役。
お金が出てくるまでの間、「バレるんじゃないだろうか?」とわきの下に冷や汗を流したものだが、無事お金がでてくると余計なことをつい考えてしまう。
「全部1万円札だと、番号控えられてるので両替したほうがいいよね?」
と、備え付けてある両替票に偽名を使って5000円、1000円に金種内訳を書きはじめると、Kさんは「そんなのいいからさっさとしろ!」とけしかける。
私は書きかけの両替票をクシャクシャにまるめてゴミ箱に放り投げ、手提げ袋を持ってKさんの後について銀行を出た。

さあ、これからが勝負だ。
不正取引がばれればその時点で犯罪が発覚し、全国の警察の注目の的になってしまう。
その前に少しでも早く、この銀行から離れなければ。
しかし、一体どこに逃げればいいのだろうか。

運良く近隣の滋賀県との県境の山麓にある、中学の時の友人宅(名前もおぼえてない)にお邪魔することができた。
その友人も、たいして親しくもないのに突然なにしにきたんだろうという疑問と、何かワケありな雰囲気にあえて何も聴かずに「友人が遊びに来た」調でかくまってくれた。
しかし、理由を話さずに何日も逗留することはできないので、日が暮れつつある中、Kさんと私はその家を出ることにした。
滋賀県との県境にある緑の山脈。
ここを越えて逃亡しなければならないのだが、なぜかKさんは原付バイク「カブ」を準備しており、辛い坂道もゆうゆうと颯爽。
私は汗みどろになりながら自転車で追走。
当然、瞬く間にKさんはみえなくなり、一人ぼっちに。

どこで夜を明かしたか覚えていないが、東から陽が昇る頃に私はKさんとの合流地点、サンテラス・ユニー(近所のスーパーです)へ自転車で向かっていた。
今日は月曜日。
祝日でなければ会社に出勤していなければならない。
それは私もKさんも同じこと。
2億という大金を持ちながらアシがつくことを恐れ、京都でも一切使うことができなかった。
それでいて、報道管制がしかれているからなのか、2億の盗難に関するニュースはいっさい流れて来ない。
バレていないのか、こちらの出方を待っているのか・・・・まったくわからなかった。
ひたすら自転車を私鉄電車の線路沿いに漕ぎ進む中、突然旋風のような、バイクが高速ですれ違った。
それはどうみても仮面ライダーのサイクロンにしか見えない特殊バイクに、立ち乗りしているKさんだった。
約束の場所とは反対の方向に、あんなスピードで走って行かれたら・・・・・・追いつけません。

やりきれないむなしさを感じながら自転車を180度転回させ、Kさんの走り去った方向に自転車を忍歩きはじめると、新聞がふと眼にとまった。
衝撃が走った。
記事によると、事件の発覚に際し容疑者であるKさんの親族は「国家がらみ」であるために丁重に扱われているとのことであるが、私の親兄弟はみな逮捕・拘束されているらしいのである。
犯罪を犯した以上ありえないのではあるが、唯一の心のよりどころにしていた親族がすべて逮捕されてしまった。
完全に行き場所がなくなってしまった。
明日の火曜日には当然会社には出社できない。「休みます」の電話連絡をいれる段階で既に逆探知がかけられているかもしれない。
手許にお金はあるが、けっして使うことができない。
みせかけの栄光。

踏切の警報機に、早く開け!ここで警官に呼びとめられたら逃げ場がないじゃないか!と怒る反面、警報機自体がパトカーのサイレンにも聴こえ、一刻も早く逃げ出したくなる。
大金は手に入れたが、使うことができない。
家族も失った。職場にも戻れない。
ああ・・・こんなことするんじゃなかった。あの平穏な日常に戻りたい・・・・・。

ここで眼がさめた。
実家の和室に寝ていたので。見覚えのない天井を見つめて一瞬ドッキリしたが、すぐに実家であることを認識して安心した。
寝汗をかいていた。
なんでこんな夢をみるんだろう。日常がすばらしいことを感謝しろと言うことなのだろうか。